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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(あ)2352号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人村井禄楼の上告趣意第一点について。

しかし、鑑定人が鑑定命令において資料につき特別に制限されたものでないかぎり、鑑定命令に指定されない物を用いて鑑定したからといって、その物が鑑定をなすについて必要かつ相当のものである以上、その鑑定人の作成した鑑定書が無効となり証拠能力を取得する余地がないものということを得ないものであることは、従来の判例の趣旨とするところである。(大正一三年(れ)一二八四号、同年一一月二八日大審院一刑判決、刑集三巻八三四頁以下参照)本件において一審裁判所が鑑定人石黒政儀に対してなした所論焼付写真(2)の撮影位置等の鑑定命令において、鑑定資料を右写真および同引伸図のみに制限する等特別の制限をなしたものとは認められないから、かかる事案における判断としての原判示は所論引用の判例とは基礎たる事案を異にし右判例に反するものとはいえない。況んや右鑑定の結果を記載した鑑定書を証拠とすることについて検察官も被告人も同意していることが記録上明らかであるから、原判決が右鑑定書の証拠能力を肯認し一審判決を是認した点に訴訟法違反のかどは認められない。それゆえ論旨は採るを得ない。

同第二点、第三点は単なる法令違反、事実誤認の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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